Webは再び「スライス」から「パッケージ」へ--“まとめ”が起こした揺り戻し

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「編集」という言葉を聞くと、自分の仕事や生活とは関係ないと思う方がほとんどではないでしょうか。雑誌や書籍の編集、映像作品における編集、たしかに以前は一握りのプロのためにある言葉でした。

それが最近は民主化されつつあるのではないか、というのがこの東京編集キュレーターズの出発点です。TwitterやFacebookで発見した面白リンクを他の誰かに共有したり、ネット上にあった印象に残るフレーズや画像をTumblrにまとめていったり、キレイな写真をPinterestにスクラップしたり、ウェブを通じて編集を体験できる機会は広がっています。

誰もが編集者になって、ほかの編集者のシゴトを評価したり、シェアしたりすることが日常的に行われています。そういった時代において、次世代の編集者同士が切磋琢磨する場所があればいいなぁというのが今回、NAVERまとめが編集コンペ「プロフェッショナルを唸らせろ」を開催した背景にあります。

「情報を集め、選んで、並べる」という編集スキルを競い合い、第一線の編集者を唸らせることができるか。まとめコンテンツを編集的切り口から評価する初めての試みです。

そこで第2回東京編集キュレーターズではまず、編集コンペ発起人で、雑誌、ウェブで豊富な編集経験を持つ博報堂ケトルの嶋浩一郎さんをゲストにお呼びしました。聞き手は前回と同じくNHN Japanの田端信太郎さんです。


――NAVERまとめの面白さは、ハガキ職人に通じる
このなかでNAVERまとめを作ったことある人はいますか?
(会場の半分くらいが挙手)
僕は紙とネットの編集を手掛けてきたわけですが、NAVERまとめは久々に編集魂がくすぐられたというか、自分で使ってみたいと心がときめいたサービスです。僕は昔ハガキ職人でした。中島みゆきやビートたけしの「オールナイトニッポン」とかに投稿していた。そんな普通の人の日常の感覚で集めたネタが面白いコンテンツになるところにNAVERの可能性を感じたんです。
田端 NAVERまとめは編集者のどういう部分を刺激するのか。
コレとコレをくっつけるのか! という想定外の結び付きを作れる所。トンチやひねりを利かすところがはがき職人に似ていると感じました。まとめを作っている人は主にどんな人たちなんですか?
田端 まとめ人の方々は基本的にこういうのが好きでやっていると思います。たとえば少女時代のニュースを淡々とまとめている人。日々、この雑誌に出る、テレビに出るとか。自分のためにまとめていたものが、どんどんファンが増えて。いまでは延べ1000万PVを超えています。
自分でやってみるとわかるけど、まとめはブロガーのテクニックともまた違う。Twitterでいっぱいフォロワーがいる人のつぶやきテクニックとも違う。一番編集スキル、サンプリングスキルを発揮しそうなサービスだと思う。
田端 僕も作ったことあるんですけど、何が違うかというと、控えめな自己主張である点。ブロガーって、特にアルファブロガーと呼ばれるような人たちは、いい意味でも悪い意味でも、「俺が俺が」と我が強い。「俺」が全面にでる。でもNAVERまとめは、「みんながこれを知りたいんじゃないか」という視点。送り手のエゴではなく、受け手を満たしたいという欲求。役に立ってもらいたいという目線です。

言ってみれば、盛り上がっている飲み会を隅っこで目を細めて見守っている幹事のようなもの(笑) 控えめなおもてなし精神が大事なんです。ワンマンショーをやるような人はブロガーですよね。
たしかに自分でギター弾いちゃうよりは、後ろでDJやってるみたいな。選曲する曲はネット上から拾ってくる。
田端 まとめ人をフィーチャーしたら面白いんじゃないかと思う。NAVERのまとめには、新しい編集のアウトプットの形として、どこに出してもおかしくないイケてる物が多いと思う。切り口によってはたとえばタウン誌の編集者がみてもすごいと思う物もあるはず。

「湘南で海が見えるカフェまとめ」なんかはすごくタウン誌的。たとえばレシピのまとめだったら、もしかしたらdanchuとかと比べても遜色ないのでは。ビジネススキル系のまとめは日経ビジネスアソシエに載ってるハウツー記事と比べても遜色ないかもしれない。

ういう期待があるから、まとめ人向けに編集コンペを開催するわけです。題して「プロフェッショナルをうならせろ」。お題を出して、応募していただきます。その審査員は編集のプロ3名。本日もお呼びしています、編集者の菅付雅信さん、Vogue girlクリエイティブディレクターの軍地彩弓さん、株式会社ピースオブケイクの加藤貞顕さんです。
――次世代編集者の存在:脅威かもしれないが、まだプロではない DSC_2350
まだまだ玉石混交のまとめコンテンツではありますが、新しい編集の可能性も生まれてきていると思うんです。NAVERまとめの編集技法は、これまでの編集技術を活用しながらNAVERというフォーマット独特なものにこれから進化していくと思うんです。今、紙やウェブの第一線で活躍する編集のプロのみなさんをうならせるようなまとめを作る人が現れたら面白いと思います。 ところで、審査員のみなさんはNAVERまとめを作ったこと、あるいは見たことはありますか?
軍地 ファッションジャンルは気になりますね。NAVERまとめの今日のファッションジャンルのトップは「ツインテール」に関するまとめでした。やはり人気なのは“ウェブの人”にとって心地よい情報なのかも。

あとはすごいデモグラティックだと感じました。人気のあるものが偉い。雑誌に対する反応は、部数と読者ハガキというアナログなもの。そういった反応がネットでは数値化された結果、今年の秋はこういうヘアスタイルが来ると言われるとドキッとする。

編集者が考えていないものが注目されていると、そっちの方が民意なんじゃないかと思ってドキっとしてしまう。デモグラティックに瞬時に民意が出るところに、紙の立ち位置が脅かされる可能性があるのかもしれない。

ただしNAVERまとめなどを脅威としては見ているが、正直、まだプロではないと思っている。プロである自分から見れば、まだ距離があると感じている。
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加藤 ピースオブケイクが始めた「cakes」はウェブで有料のコラムが読めるサービス。もともと書籍の編集者なんですが、そろそろウェブでみんながご飯を食べれなければいけないと思ってはじめた。NAVERまとめとも非常に近いものがあると思っています。

NAVERまとめはTwitterやはてなブックマーク経由でついつい見てしまう。「吉高由里子さんがかわいすぎるまとめ」とかすごい良タイトルですね。
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田端 フローじゃなくて、わりとストックなまとめも増えている。ストックコンテンツの代表である書籍からみて、まとめのストック性についてはどう思いますか?時間を超えておもしろいものってありますか?
加藤 炎上ネタとかまさにそうだと思います。記録として優れている。昔はあの役割をWikiがやっていた。
ネットはコンテンツを部品に分解していった。例えばネットニュースは新聞を記事ごとに分解して、検索しやすく、タイトルごとに見やすくしていった。情報をスライスすることで利便性も向上したわけですが、ここ2、3年で思うのは、スライスの動きに対してネット上でもパッケージングの流れが来ているんじゃないかということ。

たとえば、いま「ワーカホリックス」というニフティのネットニュースに連載を持たせていただいているのですが、このニュースサイトはニュースのスライスを並べるというよりは、サラリーマン万歳!的な文脈のニュースを集めたサイト。検索で一本のニュースを読んでもらうというよりは、ときどきこのサイトに来てもらっていろんなニュースを読んでもらうというニュースサイト。アメーバもライブドアもニュース一本一本をスライスしてアクセスしやすくしたけれど、それとは逆のにある文脈、ある視点でニュースをパッケージしたメディアだとおもう。そういう動きがあると思う。
田端 音楽もそう。iTunesがアルバムをばらばらにした。でも結局、自分で全部選ぶのは面倒だった。一度はお仕着せの抱合せ販売を嫌がったが、基本、人間は怠惰なので、やっぱり行きつ戻りつしている。お仕着せはそれなりに楽だった。スライスに分解しちゃったからこそ、編集したい部品が一杯ころがっている。
菅付 確かに行きつ戻りつはある。NAVERまとめはいい意味での「戻り」ではないか。文脈化する流れの上にある。分解の面白さをみんなが覚え始めた。でも分解した部品をどうするの?っていうところが見えていなかったタイミングでNAVERまとめが現れた。Pinterestもそうかもしれない。ばらばらにされた画像たちに文脈をつけた。
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加藤 cakesも同じ。ネットにはばらばらの情報がたくさんある。何を見ていいかわからない。そこに編集を入れた。いつものブログとは違う視点があるはず。やまもといちろうさんという炎上メーカーには「結婚と子供」について書いてもらうことを依頼した。結果として他では読めない話になった。我々の方でキュレーションしているからだ。バラバラのパーツには新しい文脈が必要。NAVERまとめはそれがやりやすい場所かもしれない。
田端 新書ブームもある種のキュレーションではないか。新書は著者のエゴを消している。著者の作家性よりも、テーマとパッケージに重きを置いて、著者をまたいだ共通解を見つけ出した。
加藤 新書は編集者が強力なワンテーマをぼんと出す。「さおだけ」みたいに、「短く、ワンテーマで」みたいな流れはある。
菅付 いま私は津田大介さん、Chim↑Pomさん、園子温さんに参加してもらっているワンテーマ本、「アイデアインク」をやっている。まさに新書的な動き。全部ワンテーマで、いまの若い方に新しい生き方を提示している。新書はシングルに近いし、それをシリーズ化したレーベルみたいなものもありだと思う。
田端 ファッションにおいても、デザイナーよりスタイリストやセレクトショップにスポットが当たったりするのは、キュレーションの文脈に近いのでは。
軍地 時代の流れが、いまスタイリストに来ているのかもしれない。風間ゆみえの本はかなり売れているし、スタイリストがこぞって本を出している。

洋服ってデザイナーから1枚買ったところでしょうがない。パーツじゃなくて文脈で着る。たとえばなぜ白いシャツにそのスカートなのか。着る人の背景が必要。「エマニエル夫人の気分で」みたいなスタイルを作れるのはスタイリストしかいない。

ファッションというのはコレクションとして出された時点で全部パーツとして分解される。それを見たあとに、どんなストーリーで取り上げるか。次のVOGUEなら「働く女性」といったテーマがある。テーマを決めるところが、編集者の編集者たる所以。ファッションというのはパーツだけじゃ意味を持たない。そういう意味では一緒。

そういうファッションにどういうアホなテーマをつけるかがいまの私の挑戦。AKBを卒業した前田敦子を表紙にしてモードにしてみたり、男の子に女の子の格好をさせてみたり。時代の流れや匂いをテイストとして組み込んで、読者をびっくりさせる。「ファッション誌ってこういう人が表紙で、こういう感じだよね」というのを裏切りたい。
――こんな“まとめ”があったらすごいと思う
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田端 編集コンペの話に戻りますが、テーマは3つあります。
  • 「とっておきのおもてなし」
  • シチュエーションはなんでもいい。とっておきのおもてなしプランについて、地図機能を使ってまとめていただきたい。
  • 「2人で観る映画」
  • これもシチュエーションは問わない。親子、上司と部下、年の離れた兄弟、同僚、思春期の息子と観る映画とかなんでも。アマゾンのデータベースやYouTubeなどを使って独自のまとめを。
  • 「大人の入門書」
  • “仕事も趣味も子育ても”という大人、これまでの人生をキュレーションするくらいの目線でまとめてほしい。ダンディズム、茶道とかいろいろ。小学生の疑問に答えるために親がまとめるとかもあり。

お題を解釈するところからすでに編集センスが問われている。賞金は最優秀賞が30万円。優秀賞は10万×3名。奨励賞は3万円×10名。該当者なしもあるけど。
これだけだとイメージしづらいと思うので以下のまとめ作例を紹介します。

作例:終電逃した2人が「いい感じにならない」ための恋愛映画


軍地 編集には「トンチ」も必要。飛躍、突拍子もない発想がいる。編集のダイナミズムはそこにある。そういうまとめがみたい。
そういうのって「名古屋人のクリエイティブ」と言える。名古屋人の“順列組み合わせ”はすごい。すがきやのフォークとスプーンが一体になったすがきやスプーン、マウンテンという喫茶店のいちご抹茶スパゲッティ、小倉トースト、ひつまぶし、ココイチのトッピング。けっこうありえない順列の組み合わせをやっている。

名古屋人はなんでも組み合わせる。可能性があるか、ないかの前にやってみる。そうやって組み合わせを発見するスキルが編集ではないか。それがヒントになるのでは。なぜこれとこれが一つのまとめに?みたいなところに「なるほど!」と感じる。
――どんなまとめを期待するか
加藤 やっぱりネットならではのまとめを見たい。書籍はマスを意識する。マニアックな題材にメジャー感を持たせて、ネットでしか表現できないもの、普通の編集者が作らないものに仕立て上げてほしい。
軍地 NAVERまとめは公式な写真素材なども整ったそうなので、ぜひビジュアル面でも引きのあるものを作ってほしい。編集者魂をこれまでと違うジャンルで魅せつけてほしい。
菅付 せっかくネットでやるものなので、極端に個人的なものをサンプリングアートみたいに作ってほしい。自分が書いたものではないんだけど、自分の考えに共鳴したソースを徹底的にかき集める。自分が語ったコンテンツではないけど、まるで自分が主語のような主張。そういうものを表現してほしい。

編集コンペ開催記念!今回のテーマは「次世代編集者に求められる編集力とは?」

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このたびNHN Japan株式会社主催の編集コンペの開催が決定いたしました。

第2回の編集キュレーターアカデミーは、この編集コンペの開催を記念して、博報堂ケトルの嶋浩一郎氏と東京編集キュレーターズ幹事の田端信太郎氏が、「現代に必要な編集力」について議論を行いたいと思います。 「誰でも編集長時代」「誰でもメディア」と言われる今、求められる編集力とは―。

同時に、コンペの開催概要の発表や、審査員の方もゲストとして登壇する予定です。どうぞご期待くださいませ。

イベント概要

  • テーマ:「編集コンペ開催記念」~誰でも編集長時代は本当にくるのか? ‐現代に必要な編集力とは‐~
  • スピーカー:嶋浩一郎・田端信太郎 ※さらにスペシャルゲスト!
  • 開催日時:2012年10月22日(月)20:00~22:00 (19:30開場)
  • 場所:本屋B&B(世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F)
  • 入場料:1,000円(1ドリンクチケット込み)
  • 応募締め切り:2012年10月11日
応募は終了いたしました
USTREAMで生放送することになりました!
東京編集キュレーターズUSTREAMチャンネル
※応募者多数の場合は抽選とさせていただきます。当選の案内は改めてメールでご連絡させていただきます。
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講師紹介

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嶋浩一郎

しまこういちろう

博報堂ケトル代表
編集者・クリエイティブティレクター

1968年生まれ。上智大学法学部卒。93年博報堂入社、企業のPR・情報戦略の部署に配属され、社畜人生が始まる。06年既存の広告手法にとらわれない課題解決を目指し、博報堂ケトルを設立。現在も、プライベートと仕事の垣根のない仕事中心の社畜生活を続けている。週刊少年サンデー・週刊少年マガジン50周年コラボ企画、KDDI 、伊藤忠商事「MOTTAINAI」等の広告キャンペーンを制作。また、エリアニュースサイト『赤坂経済新聞』やカルチャー誌『ケトル』編集長。

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田端信太郎

たばた しんたろう

1975年10月25日生まれ。石川県出身
NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げ、R25創刊後は広告営業の責任者を務める。その後、ライブドアに入社し、livedoorニュースを統括。ライブドア事件後には執行役員メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、BLOGOSなどを立ち上げる。2010年春からコンデナスト・デジタルへ。VOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年6月 NHN Japan株式会社 執行役員広告事業グループ長に就任。livedoor、NAVERまとめ、LINEなどの広告営業を担当。